最高裁判所第二小法廷 昭和27年(あ)1976号 決定 1953年10月19日
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人小脇芳一、同古田進の上告趣意第一点について。
所論は法令違反の主張であるから刑訴四〇五条所定の上告理由に当らない。所論は要するに被告人には黙秘権が認められており自己の被告事件について他人を教唆して偽証させた場合は理論上自己の被告事件に関する証憑湮滅行為に外ならないから刑法一〇四条の趣旨により偽証教唆罪に問擬すべきではないというに帰する。しかし被告人自身に黙秘権があるからといって、他人に虚偽の陳述をするよう教唆したときは偽証教唆の責を免れないことは既に当裁判所の判例とするところであり(昭和二六年(あ)第二六二号、同二七年二月一四日第一小法廷決定参照)、今これを変更する必要を認めない。また刑法一〇四条の証憑の偽造というのは証拠自体の偽造を指称し証人の偽証を包含しないと解すべきであるから、自己の被告事件について他人を教唆して偽証させた場合に右規定の趣旨から当然に偽証教唆の責を免れるものと解することはできない。従って原判決には所論の如き違法も存しない。
同第二点について。
所論もまた法令違反の主張であるから刑訴四〇五条所定の上告理由にあたらない。そして第一審判決挙示の証拠により証人吉川八重子は宣誓の上虚偽の陳述をしたものであることが明らかであり真実の事実が如何なるものであるかはこれを判示する必要はない。また何人も自己が刑事訴追を受け又は有罪判決を受ける虞のある証言を拒むことができることは刑訴一四六条の規定するところであるが証人がこの証言拒絶権を抛棄し他の刑事事件につき証言するときは必ず宣誓させた上で、これを尋問しなければならないのである。それゆえかかる証人が虚偽の陳述をすれば刑法一六九条の偽証罪が成立するのである。されば本件につき証人吉川八重子が所論の如く証言拒絶権があるとしても同証人は拒絶権を抛棄し宣誓の上虚偽の証言をしたものであるから偽証罪の成立したものというべく被告人が右証人を教唆して偽証させたときは偽証教唆の責を免れないものと解すべきである。従って原判決には所論の如き違法も存しない。
弁護人馬越旺輔の上告趣意について。
所論の一は証拠の価値判断及び事実認定を非難する主張であり、所論の二は量刑不当の主張であっていずれも刑訴四〇五条所定の上告理由に当らない。所論の三は大赦を云為するが偽証については大赦がなかったのであって上告適法の理由にあたらない。
なお記録を精査するも本件につき刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって刑訴四一四条、三八六条一項三号、一八一条により主文のとおり決定する。
この決定は裁判官全員一致の意見である。
(裁判長裁判官 霜山精一 裁判官 栗山 茂 裁判官 小谷勝重 裁判官 藤田八郎 裁判官 谷村唯一郎)